東京高等裁判所 昭和25年(う)1904号 判決 1950年9月30日
被告人
笠川幸雄
外一名
主文
本件控訴は何れも之を棄却する。
理由
弁護人児玉正五郎の控訴趣意第三点について。
原審が論旨摘記通りの証拠によつて原判示第一乃至第三の事実を認定して居ることは所論の通りであるが、原審が右証拠の如何なる部分を罪証に供したかは、原判決のみを以てしては之を詳に為し得ないし又敢て判決に之を記載する要のないことは刑事訴訟法第三百三十五条第一項其の他に徴して明らかであるから、唯右証拠中に認定事実と相容れない部分があり、又は証拠相互の間に矛盾する部分があるからと謂つて、直ちに原判決に理由齟齬の違法があるとは断じ得ない。而も原審は前記証拠を綜合して判示事実を認定したものと認められるのであつて、斯る場合認定事実と矛盾する証拠であつても、之を理論的に又一般経験則に従つて綜合すると心証が形成され、直接間接に犯罪事実を認定し得る場合があり、此の場合には心証が形成され事実が認定された結果からすれば、其の証拠は其の認定に不要であり、寧ろ之を妨げるような感がないではないが、実は綜合判断に於ける心証形成の資料として必要不可缺なのである。而して原判決挙示の前記証拠を綜合すると、原判示第一乃至第三の事実を認定し得るのであつて、原判決には所論のような理由不備乃至理由齟齬は毫も存しないから論旨は何れも理由がない。